第7章: 対抗薬と運命の選択

漆(うるし)は、永綴(えいてつ)と秩序のペンを手にしたまま、心の中で強い決意を感じていた。両親が守ろうとしていた未来のために、そして瑠璃(るり)を救うために、彼はこの運命の選択を果たさなければならなかった。

夜の静けさの中で、漆は自らの心を静め、冷蔵庫の中に隠されているという対抗薬の存在を思い出した。両親が命を懸けて開発した薬が、今まさに彼の手に届こうとしている。その一歩が、未来を変える大きな一歩になるはずだ。

彼は自分を落ち着けようと深呼吸をし、静かに冷蔵庫の扉を開けた。暗い冷蔵庫の中には、食材が並んでいるが、その奥には両親が隠していたという小さな瓶が見えた。漆は手を伸ばし、その瓶を引き寄せる。そこには、彼が想像していた通りの対抗薬があった。

対抗薬の瓶のイメージ

瓶の中には鮮やかな青い液体が入っていた。まるで星空を閉じ込めたような、その美しい色合いに漆は息を呑んだ。「これが……未来を救う薬なのか?」漆はその瓶を手に取り、じっと見つめた。彼の心には希望が芽生え、同時に大きな責任がのしかかる。

漆は、その対抗薬が両親の意志を引き継ぐものであり、瑠璃を救うための唯一の手段であることを理解していた。だが、同時に不安も感じていた。もしこの薬が効かなかったら? 彼の頭には様々な不安が渦巻いていた。

再び自分の部屋に戻り、漆は瓶を机の上に置いた。永綴を開き、両親がこの薬をどのように使うことを考えていたのか、そして瑠璃にどのような影響を与えるのかを確かめる必要があった。ページをめくると、両親の研究ノートに、薬の使い方が詳しく記されていた。

「この薬は、命の危機に瀕している者に投与することで、体の中に潜む奇病を排除する力を持っている。ただし、投与する際は慎重に行うこと。」その記述を読んだ瞬間、漆の心に希望が灯った。瑠璃を救うためには、この薬を使うしかない。

「しかし、これは運命を選ぶことでもある。」漆は、自分の内なる声に耳を傾けた。彼は何度も自問自答した。「本当にこの選択が正しいのか? もし瑠璃が目を覚まさなかったら、俺はどうなってしまうのか?」

漆は、決断するために何度も心の中で葛藤を繰り返したが、最終的には家族を守るため、瑠璃を救うためにこの選択をするしかないと結論を出した。

再び冷蔵庫に向かうと、漆は対抗薬を持って瑠璃が寝ている病院へと向かった。彼女の病室に着くと、無表情の医療器具と白い壁が彼の心を一層重くした。

漆は瑠璃の横に座り、彼女の顔を見つめた。青白く見える頬、無防備なまま眠る彼女。心の中で何度も名前を呼ぶが、応答はない。彼女は無事に目を覚ますのだろうか? 漆は涙をこらえながら、薬の瓶をそっと持ち上げた。

「瑠璃……俺はお前を助けるためにここに来たんだ。」漆は小声で言った。その言葉が、彼女の心に届くことを願った。彼は瓶の蓋を開け、薬を慎重に取り出した。薬の青い液体が、漆の手の中で光を放っているように感じられた。

「これが、俺たちの未来を変えるための鍵なんだ。」漆は自分に言い聞かせるように呟いた。彼は瑠璃の口元に薬を近づけ、緊張のあまり手が震えた。果たして、彼女にこの薬を投与することで運命が変わるのだろうか?

漆は思いを込めて薬を彼女の唇に少しずつ運んだ。瑠璃の口の中に薬が入ると、漆は強く祈った。「お願い、目を覚まして……!」

しばらく待ったが、反応はなかった。漆は心臓が締め付けられる思いだった。無情な時間が過ぎていく中、漆の心に冷静さを保つことができなくなってきた。

その時、瑠璃のまぶたがゆっくりと開かれた。漆の心臓が一瞬跳ね上がる。

「瑠璃……?」彼の声は震えていた。瑠璃の視線が彼に向かう。薄ぼんやりとした視線が、次第に彼を認識するように変わっていく。

「うるし……?」瑠璃の声はか細かったが、確かに彼に届いていた。漆は涙を流しながら、彼女の手を強く握りしめた。

「お前が戻ってきてくれた……!」漆は心の底からの安堵を感じた。彼女が戻ってきたことで、未来への希望が再び燃え上がった。

この瞬間、漆は自分の選択が正しかったことを確信した。彼は運命を選ぶために前に進む準備ができていた。