タイトル

第6章: 永綴の書と過去改ざんの真実

霧人(きりと)から手渡された「永綴(えいてつ)」と「秩序のペン」を手にした漆(うるし)は、夜が明けぬうちに部屋にこもっていた。あの不思議な男が姿を消してからというもの、漆の心は落ち着かず、手に持つその古びた書物の重みが、彼の運命を明らかに変えるものだということを感じさせていた。

永綴――それはすべての時間の記録。過去、現在、未来を織り交ぜ、世界のすべての歴史がこの一冊に刻まれていると言われていた。そして、「秩序のペン」は、その歴史を書き換えるための道具。時間を操作し、過去を改ざんすることさえも可能にする力を持っている。

漆は、父親の書斎で見つけた永綴のことを思い出し、そのページをめくった時の感覚を思い起こしていた。しかし、その時はまだ自分の力ではどうにもできないという漠然とした恐怖に囚われていたのだ。今、再びその書物を前にし、彼は全ての真実を知るべきだと感じた。

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その夜、漆は静かに永綴のページを開いた。

すぐにページが勝手にめくれ始め、記されている文字が漆の目に飛び込んできた。その文字は時折、奇妙な形をしていたが、不思議なことに漆の頭の中でその意味が自動的に理解されていった。まるで、書物が自ら語りかけてくるような感覚だった。

「これは……?」

漆の目が走るページには、父親の名と母親の名がはっきりと書かれていた。灰原浩介(はいばら こうすけ)と玲子(れいこ)。彼らが何をしていたのか、その研究の全貌が、永綴のページに詳細に書かれていた。

「奇病の対抗薬……」

漆はその言葉に心を奪われた。未来に広がる奇病、それが人類を滅ぼすものであり、それに対抗するための薬を両親が研究していたということがはっきりと記されていた。だが、彼らはその研究を進めるために過去を変えようとしていた。通常の科学の手法だけでは解決できない問題に直面し、時間を操作することで、未来の危機を未然に防ごうとしていたのだ。

漆はページをさらにめくった。そこには、両親がその奇病にどう対抗しようとしていたのか、また、その研究がどれほど危険なものであったかが詳細に記されていた。

「両親は……未来を救おうとしていたんだ……」

漆は信じられない気持ちでその記述を読んだ。両親が逮捕された理由は、不正な実験や隠蔽ではなく、未来のために必要な手段を講じた結果だったのだ。警察や社会はそれを知らずに、彼らを罪に問うた。だが、両親は自分たちの命を懸けて、未来を守るために戦っていたのだ。

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さらにページをめくると、ルカの名前が現れた。

ルカ――漆が出会った男。彼が過去を改ざんしているという話を霧人から聞いていたが、永綴には彼の行動の詳細が記されていた。ルカは、未来に訪れる破滅を止めるために、何度も過去を改ざんしてきた。しかし、その改ざんは思うようにいかず、未来は歪み続けていた。

「ルカも……ただ未来を救おうとしていただけなんだ……」

その事実を知った漆は、複雑な感情に包まれた。ルカは過去を変えることで未来を救おうとしたが、結果としては時間が歪み、混乱が広がってしまった。しかし、それもまた、彼が良かれと思って行った行動の結果だった。

ルカの改ざんは、歴史の一部を変えることで未来を変えようとするものだった。しかし、その変更は他の出来事にも影響を与え、無数の未来が崩れ、さらなる混乱を生んでいた。漆はその事実に驚き、同時に恐れを感じた。

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永綴の記述はさらに続く。

ページをめくると、両親が未来のために奇病の対抗薬を完成させていたことが記されていた。漆の胸は大きく揺れた。自分たちの家に、すでにその対抗薬が存在していること、それが世界を救うための鍵であることがはっきりと書かれていた。

「対抗薬は……家にあるんだ。」

漆は驚愕し、すぐに家の冷蔵庫にある薬のことを思い出した。両親が逮捕される直前に、その薬を隠していたのだ。それが未来を救う唯一の方法であり、両親はそれを自分たちの手で守ろうとしていたのだ。

漆は急いで立ち上がり、冷蔵庫に向かおうとしたが、永綴のページがふいに震え、勝手に閉じた。その瞬間、漆はハッと立ち止まった。まだ全てを理解していない。焦って行動することは危険だという感覚が、彼の胸に湧き上がった。

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そして、永綴の最後のページには、霧人に関する記述があった。

彼がどこから来たのか、なぜ未来に関わっているのかが書かれていた。霧人は、時間そのものの管理者であり、過去や未来の歪みを正す役割を持っていた。彼が漆の前に現れたのは、世界が再び崩壊しようとしていることを防ぐためだった。

漆はその記述を読み進めるにつれ、彼が持っている役割の重さを感じた。彼はただの少年ではなく、時間の管理者として選ばれた存在だった。永綴と秩序のペンを使い、未来を守るために過去を正す役割を担っているのだ。

「これが……俺の使命なのか。」

漆はその場で深く息をつき、両親の遺したもの、ルカの選択、そして霧人が託した運命の重さを感じながら、静かに永綴を閉じた。

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漆の心には、強い決意が芽生え始めていた。

両親が命を懸けて守ろうとした未来。ルカが過去を改ざんしながらも救おうとした未来。そして霧人が提示した、時の歪みを正すための使命。すべてが漆の手に託されているのだ。

漆は、手の中の秩序のペンをしっかりと握りしめた。

「俺が……未来を救う。」

その言葉は、静かに、しかし確かな決意として漆の心に深く刻まれた。そして、彼は次に何をすべきかを理解し始めていた。

永綴の書と過去改ざんの真実