ルカがいつものようにアリアと過ごした日々のアルバムを開いたのは、疲れがたまっている夜だった。彼は、これまでの日々を振り返りながら、愛する妹アリアの写真をめくっていた。彼女の笑顔はいつも彼を励まし、穏やかな日常を彩っていた。しかし、アルバムの途中で突然、違和感が襲った。
「……アリアがいない?」
ふと気づいた瞬間、ルカの心臓は鼓動を速めた。見慣れたはずの写真に、アリアの姿が見当たらない。以前は確かに写っていたはずの彼女が、まるで最初から存在していなかったかのように消えている。頭の中に冷たい恐怖が広がり、ルカはアルバムを何度も確認した。
「こんなはずはない……アリアが……」
その瞬間、ルカの脳裏に過去の改変がよぎった。瑠璃を救ったことが、何か大きな影響を与えたのではないか?ルカは震える手でアルバムを閉じ、息を詰めた。胸に込み上げてくる恐怖を抑えながら、彼は必死に答えを探し始めた。
翌日、ルカは霧人にこの異変を打ち明けた。霧人は冷静に聞きながらも、真剣な表情を浮かべていた。
「アリアが消えた……どういうことなんだ?」霧人は額に手をやり、深く考え込んだ。「瑠璃を助けたことが、こんな影響を及ぼすとは……」
「アリアがいなくなったのは、過去の改変が原因なんだ。どうしても彼女を救わなければならない……」ルカの声は震えていた。アリアがいない世界など考えられない。
霧人はため息をついた。「ルカ、これ以上過去を変えるのは危険だ。小さな出来事でも、未来に大きな影響を与えるんだよ。僕たちはすでにその代償を見てきた。」
「そんなことは分かってる!でも……アリアを失うことはできない!」ルカは感情を抑えきれず、叫んだ。
その時、ルカの脳裏にある真実が浮かんだ。彼はアルバムに載っていない、もう一つの記憶を思い出していた。瑠璃がいなくなったことにより、アリアが幼い頃に寂しさを感じていたあの日——彼女は寂しさに押しつぶされるように車道に飛び出し、事故に遭い命を落とした。あの事故が、アリアの消失に繋がったのだと。
「僕はアリアを助けるしかないんだ。」ルカは意を決した顔をしていた。
ルカは再びクロノメーターを使い、過去へと飛び込んだ。今度こそ、アリアを救うために。
その瞬間、彼の目の前には数年前の街並みが広がっていた。幼いアリアが、瑠璃を失った悲しみからくる孤独に涙を浮かべ、車道の向こう側を見つめていた。彼女は無意識に足を前に出し、車道へと一歩踏み出した。
「アリア、危ない!」ルカは全力で駆け出した。彼の叫び声は一瞬の静寂を破り、アリアは驚いて立ち止まった。その瞬間、ルカは彼女の腕を掴み、車道から引き戻した。
息を切らしながら、ルカはアリアをしっかりと抱きしめた。「大丈夫だ、もう何も怖くない……」
アリアは驚いた表情を浮かべたまま、兄の腕の中に包まれていた。彼女を救ったという安堵感が、ルカの全身を包み込んだ。しかし、その安堵は長く続かなかった。
現代に戻ったルカは、再び不安に襲われた。彼が過去を変えたことで、何か他の問題が発生するのではないかという不安が拭いきれなかった。過去に干渉することでどんな影響が未来に及ぼされるか、予測できるはずもなかった。
そして、その恐怖はすぐに現実となった。アリアが再び倒れたのだ。未知の病に襲われた彼女は、病院のベッドに横たわり、苦しそうな呼吸を繰り返していた。
「アリア……」
医者たちも病の原因がわからず、成す術もなかった。さらに追い打ちをかけるように、クロノ・レクタスの大きな歯車が狂い始め、煙を立ち昇らせていた。時計店の機械は異常を示し、時間そのものが歪んでいることを示唆していた。
「ルカ、時間が……崩れていく……」霧人が息を荒らげながら歯車を修繕しようとしていたが、事態は急速に悪化していた。
「過去は……変えてはいけなかったんだ……」ルカは、思わずつぶやいた。