タイトル

第3章:瑠璃の日記と過去の傷

数日後、紅葉は再びカフェ「クィルアンカ」の席に座っていた。手元には、瑠璃の日記が置かれている。日記を開くたびに感じる罪悪感が胸を締めつけるようで、手が震えていた。

「今日は瑠璃のことを話さなきゃ……ナオに、すべてを。」

紅葉は深呼吸をし、やがてナオがカフェに入ってくると、少し緊張した様子で顔を上げた。ナオの笑顔を見ると、少しだけ気持ちが軽くなる。それでも、今日話すべきことの重さを思うと、紅葉の胸は再び重くなった。

「紅葉、どうしたの?元気ないみたいだけど……」ナオは心配そうに紅葉を見つめた。

紅葉はその言葉に促されるように、日記を見下ろしながら小さな声で切り出した。

「ナオ……今日は、瑠璃のことを話したいの。私が、彼女にしてしまったこと……」

ナオは静かに頷き、紅葉の言葉を待っていた。

「瑠璃は、私の大切な友達だった……でも、彼女がいじめられているとき、私は助けられなかったんだ。」紅葉は俯き、目を伏せた。

「彼女は『犯罪者の娘』って言われて、みんなから孤立していた。私も、彼女の父親が逮捕されたことが原因だって知ってた。でも、何もできなかった……怖くて、何も。」

日記の画像

紅葉の声には後悔がこもり、手元の日記を強く握りしめていた。ナオは何も言わず、ただ彼女の話に耳を傾けていた。

「それだけじゃないの。私の母が新聞記者で、瑠璃のお父さんの不正を暴いたんだ。それが原因で、瑠璃の父親は捕まって……彼女はもっと苦しむことになったの。私のせいで、彼女は……」

紅葉の言葉が詰まり、涙が目に溜まった。それでも、彼女は続けた。

「なのに……瑠璃は、私を助けてくれたの。学校の帰り道で通り魔が出没した日、私が殺されそうになったとき、彼女が私の代わりに身を挺して、犯人に刺されてしまったの。」

紅葉の声は震え、涙が頬を伝い落ちた。ナオは静かに紅葉の隣に座り、彼女を支えるようにそっと手を握った。

「どうして、私なんかを……助けてくれたのか、分からない。私は彼女を助けなかったのに……」

紅葉の心には、ずっと消えない罪悪感と後悔が残っていた。それが今、ナオの前で解き放たれたようだった。

ナオは静かに紅葉を見つめ、優しく語りかけた。

「紅葉、瑠璃はきっと君のことを本当に大切に思っていたんだよ。助けられなかったことを責める必要はない。彼女は君を恨んでなんかいない。むしろ、君を守りたかったんだと思う。」

紅葉はナオの言葉に、少しずつ落ち着きを取り戻していった。それでも、瑠璃の最期の思いが知りたい気持ちは残ったままだ。

「でも、瑠璃が私に何を思っていたのか……それが分からないんだ。」紅葉は日記を見つめながら、呟いた。

ナオはそっと紅葉の手を握り、優しく微笑んだ。

「紅葉、瑠璃はずっと君の友達だったんだよ。彼女のこと、もっと信じてあげてもいいんじゃないかな?」

紅葉は涙を拭い、ナオの言葉に小さく頷いた。瑠璃との思い出が、少しずつ心の中で鮮明に蘇ってくる。彼女の優しさ、強さ、そして自分に向けられた無償の愛が、紅葉の心を揺さぶった。

「ありがとう、ナオ。私……もう少し、瑠璃のことを信じてみるよ。」

紅葉は決意を胸に抱き、瑠璃の日記を再びカバンにしまった。瑠璃が何を思っていたのか、その答えをまだ見つけていないが、これからも彼女のことを考え続けようと、紅葉は心に誓った。

二人は静かにクィルアンカを後にし、秋風が吹き抜ける街を歩きながら、これからの未来について語り合った。