タイトル

第6章: ナオからの手紙

フィオナと紅葉の対話がきっかけとなり、ナオのいじめ問題は少しずつ解決に向かって動き出していた。紅葉が心からナオに謝罪し、いじめの背後にあった彼女自身の恐れや不安を伝えたことで、ナオも紅葉の本当の気持ちを理解し始めていた。

だが、ナオにとってこの出来事は大きな心の傷となっており、簡単に元気を取り戻すことはできなかった。それでも、フィオナはナオをそっと見守り、時折優しく声をかけながら、彼女が少しずつ前を向く手助けをしていた。

ある日の午後、フィオナは家で静かに本を読んでいたが、ふとナオの部屋から物音が聞こえた。心配になったフィオナは、ナオの様子を確かめに行くと、彼女は机に向かって一心不乱に何かを書いていた。

"ナオ、何してるの?"フィオナは優しく声をかけた。

ナオは一瞬驚いたように振り返ったが、すぐに微笑んで"ただ、書いてるだけだよ"と答えた。その表情は以前の暗い影を少しずつ取り戻しつつあり、フィオナは心の中でほっとした。

"書くことで、少しでも気持ちが整理できるの?"フィオナはナオの机の上を見つめながら聞いた。

ナオは小さく頷いた。"うん、昔から書くのが好きだったから、書いてると少しだけ落ち着くんだ。いじめのことや紅葉さんのこと、そして自分の気持ちも、こうして書いてみると少しずつ整理できる気がする。"

フィオナはその言葉に心から感動した。ナオは、ただ守られる存在ではなく、自分自身の力で立ち上がろうとしているのだ。フィオナがどれだけサポートしても、最終的にナオが自分自身でこの困難を乗り越えようとしている姿は、フィオナにとって新しい発見であり、誇りに思えた。

"ナオ、本当に強いんだね"とフィオナは小さくつぶやいた。

ナオはその言葉に照れくさそうに笑った。"そんなことないよ。お姉ちゃんがいてくれたから、私はこうして前を向けるんだ。もしお姉ちゃんがそばにいてくれなかったら、私はきっともっと辛かったと思う。"

フィオナはナオの言葉を聞き、心が温かくなるのを感じた。姉としてナオを守りたいという思いは強かったが、今はナオが自分で前に進もうとしていることを嬉しく思った。

"でも、ナオ、あなたは自分の力で立ち上がってるよ。それがすごいことなんだ。私も、あなたがこうして頑張ってる姿を見て、元気をもらってるよ。"フィオナは優しく微笑みながら、ナオの肩を軽く叩いた。

それから数日後、フィオナは妹の変化を感じていた。ナオは学校でも少しずつ明るさを取り戻し、以前のように笑顔を見せることが増えていた。特に、クィル・アンカの文房具店に足を運ぶことがナオにとって心の癒しとなっていた。フィオナは何度かナオが店の男の子と楽しそうに話している姿を目にして、ほっと胸を撫で下ろしていた。

"ナオ、最近よくクィル・アンカに行ってるよね?"フィオナは何気なく尋ねた。

ナオは頬を赤らめて笑いながら、"あの文房具店、昔から好きだったから。瑞輝さんっていう店員さんがとても親切で、私に新しいノートを勧めてくれたんだ。それで、書くことがさらに楽しくなって…ついつい通っちゃうんだよね。"と答えた。

フィオナはその話を聞きながら、ナオが新たな希望と支えを見つけたことを感じ、安心感が広がっていった。文房具店での時間が、ナオにとって自分を取り戻す大切な場所となっているのだ。

フィオナが部屋で静かに過ごしていたある日、郵便受けから一通の手紙が届いた。封筒には「お姉ちゃんへ」とナオの可愛らしい文字で書かれていた。フィオナは驚きつつも、そっと封を開けた。

フィオナがクラスをまとめるシーンの画像

お姉ちゃんへ
まず最初に、私のためにずっとそばにいてくれて、本当にありがとう。お姉ちゃんがいなかったら、私はもっと傷ついて、もっと迷子になっていたと思う。お姉ちゃんが私を抱きしめてくれたとき、「あなたのせいじゃないよ」って言ってくれて、私はその言葉にどれだけ救われたか、言葉にできないくらいです。
いじめにあっていた間、私は自分が弱くて、どうしていいかわからなくて、心が壊れそうだった。でも、ずっとお姉ちゃんが私を見守ってくれていたことが、どれだけ力になったかを今はよくわかるよ。
お姉ちゃんが紅葉さんと話してくれて、私がいじめられていた本当の理由も知ることができた。あのときは本当に辛かったけど、紅葉さんの言葉を聞いて、彼女もまた自分の中で戦っていたんだって理解できたんだ。彼女がいじめを始めた理由が私を守りたいという気持ちだったなんて、最初は信じられなかったけど、彼女が心から謝ってくれたとき、私も彼女を許すことができた。紅葉さんとの和解は、私にとってとても大きな一歩だった。
それから、クィル・アンカで瑞輝さんと話しているうちに、少しずつ笑顔を取り戻せるようになってきた。書くことがまた楽しいと感じられるようになって、自分の気持ちを整理する時間が増えたんだ。今では、毎日が少しずつ明るくなっていくのを感じてる。
お姉ちゃん、私がこうして前を向いて生きていけるのは、全部お姉ちゃんのおかげだよ。だから、私もこれからはもっと強くなって、自分の力で困難に立ち向かっていきたいと思う。そして、もしお姉ちゃんが困ったときには、今度は私が支える番だと思ってる。私もお姉ちゃんを守りたいんだ。
これからも、二人で一緒に歩いていこうね。
ナオより

フィオナは手紙を読み終え、しばらくその場に立ち尽くしていた。ナオの素直で温かい気持ちが、手紙の一字一句から溢れ出ていた。ナオがいじめから立ち直り、自分の道を見つけ、さらにフィオナを支えようとする姿勢に、フィオナは涙が止まらなくなった。

"ナオ…本当に強くなったんだね"とフィオナは、小さくつぶやきながら涙を拭った。

ナオが立ち直ったこと、その過程で自分が少しでも助けになれたことが、フィオナにとって何よりも嬉しかった。これからも、姉妹としてお互いを支え合いながら歩んでいけるという確信が、フィオナの心に力強く宿っていた。

そして、フィオナは手紙をそっと机の引き出しにしまい、ナオの成長を心から誇りに思った。その手紙は、二人の新しい未来への希望を象徴するものとなった。