ナオがいじめに遭っていることを知ったフィオナは、心を重くしながらも解決策を見つける決意を固めていた。彼女はナオを守るためにできることを模索し、学校での状況を慎重に見守っていた。妹がどれほど苦しんでいるかを目の当たりにしながら、フィオナは次第にそのいじめの中心人物が、かつてナオの親友だった紅葉であることに気づき始めた。
紅葉は、ナオにとって大切な存在だったはずだ。しかし、なぜ彼女がいじめに加わっているのか、その理由がわからず、フィオナは苛立ちを覚えた。ナオが最も信頼していた友人に傷つけられているのだ。どうしても紅葉と直接話し、真相を確かめなければならないという思いが日に日に強まっていた。
ある日、フィオナは意を決して紅葉に話しかける決心をした。放課後、校舎の外で紅葉を見かけたフィオナは、彼女に声をかけた。"紅葉さん、少し時間ある?"フィオナの声は落ち着いていたが、その奥には緊張があった。
紅葉は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静な顔つきに戻った。"何?フィオナさん。"紅葉の声には、どこか冷たいものが含まれていた。
フィオナはためらわずに言葉を続けた。"ナオのことなんだけど、最近彼女が学校でひどく苦しんでる。それが…紅葉さん、あなたが原因だって聞いたんだけど、本当?"
紅葉は一瞬言葉を失ったように見えた。目を逸らし、やがて小さくため息をついた。そして、フィオナの視線を避けながら、静かに口を開いた。"…そうだよ。私がナオをいじめてる。でも、誤解しないで。私は最初から彼女を傷つけたかったわけじゃないんだ。"
フィオナは息を呑んだ。紅葉がすんなりと自分の行いを認めるとは思っていなかった。だが、その言葉の裏には何か深い理由があるように感じた。"どうして?"フィオナは問いかけた。"どうして、ナオにそんなことをしたの?"
紅葉はフィオナの質問にしばらく答えなかった。彼女は空を見上げ、どこか遠い記憶を呼び起こすような目をしていた。そして、ゆっくりと口を開いた。"…ナオは優しすぎるんだよ。彼女は、誰かを助けたいって気持ちが強すぎる。そのせいで、自分を犠牲にしてしまうんじゃないかって、ずっと心配してたの。"
フィオナは紅葉の言葉に驚き、黙って聞き続けた。"私には…昔、親友がいたんだ。瑠璃っていう子。彼女もナオと同じくらい優しかった。でも、その優しさが彼女自身を追い詰めて、最終的には孤立してしまった。彼女はみんなのために自分を犠牲にし続けて、最後には誰も彼女を助けることができなかったんだ。"
紅葉の声は次第に震え始め、目には涙が浮かんでいた。"私もその時、彼女を助けることができなかった。彼女が孤立していくのを見ていながら、何もできなかったんだ。それがずっと心の中で重くのしかかっていて…今でも後悔してる。"
フィオナは、紅葉が過去に深い傷を抱えていることに気づいた。瑠璃との関係が、今のナオへのいじめに繋がっているとは想像もしなかった。"ナオが、瑠璃みたいになるのが怖かったんだ"と紅葉は続けた。"ナオも、自分を犠牲にして誰かのために頑張りすぎる。だから、私は彼女が同じように孤立してしまうんじゃないかって、怖くてたまらなかった。そんな自分の不安を、彼女に押しつけてしまっていたんだ。私はナオがもっと強くなるようにと願って、あんなことをしてしまった。でも、それが間違っていたことはわかってる…。"
紅葉はその場で肩を震わせながら、フィオナの前で涙をこぼした。彼女の心の中にあった痛みと罪悪感が、長い間彼女自身をも苦しめていたのだ。
フィオナは、紅葉の言葉に深く共感しながらも、ナオの気持ちを思うと、胸が締め付けられるようだった。紅葉がナオを守りたい気持ちがあったとはいえ、それがいじめという形で表れてしまったことは許されることではない。だが、紅葉が今こうして後悔し、ナオを傷つけたことを悔いている以上、何かしらの解決策を見つけなければならないと感じた。
フィオナは静かに紅葉の肩に手を置き、優しい声で言った。"紅葉さん、あなたがナオのことを心配していたのはよく分かった。でも、彼女を傷つけることで解決することは何もない。ナオは瑠璃とは違う。彼女には自分を守る力があるし、きっと乗り越えられる強さがあるんだ。だから、今こそ彼女と向き合って、素直に話をしてみたらどうかな?"
紅葉は涙を拭いながら、フィオナの言葉にうなずいた。"そうだね…私が間違っていた。ナオを信じられていなかったんだ。彼女には彼女なりの強さがあることに、気づくのが遅すぎたけど、今度こそちゃんと謝るよ。"
フィオナは、紅葉が素直に自分の過ちを認めたことに安堵し、微笑んだ。"大丈夫。ナオはきっとあなたの気持ちをわかってくれるよ。勇気を持って話し合えば、二人の関係はきっと修復できるはずだから。"
紅葉は深く息を吸い、フィオナに感謝の意を込めて頭を下げた。"ありがとう、フィオナさん。あなたがこうして話してくれなければ、私はずっとナオを傷つけ続けていたかもしれない。これからは、ナオのためにも、もっと正しい形で彼女を支えたいと思う。"
フィオナは紅葉に微笑み返し、優しく励ました。"ナオはあなたのことを大切に思っているはずだよ。だからこそ、今度はちゃんとお互いに向き合って、前に進んでいけると信じてる。"
その日、フィオナと紅葉はナオとの和解に向けて一歩を踏み出した。紅葉がナオに心から謝罪し、二人の間に再び信頼を築くことができるように、フィオナも協力して支えていく覚悟を決めたのだった。